万葉集Ⅱ赤人 前半

山部 赤人(やまべ の あかひと、生年不詳 - 736?)は、自然の美しさや清さを詠んだ叙景歌で知られ、その表現が周到な計算にもとづいているとの指摘もある。

柿本人麻呂(660?-724)と歌聖と呼ばれ称えられており、紀貫之も『古今和歌集』の仮名序において、「人麿(柿本人麻呂)は、赤人が上に立たむことかたく、赤人は人麿が下に立たむことかたくなむありける」と高く評価している。

この人麻呂との対は、『万葉集』の大伴家持(718?-785)の漢文に、「山柿の門」(山部の「山」と柿本の「柿」)とあるのを初見とする。

その経歴は定かではないが、『続日本紀』などの正史に名前が見えないことから、下級官人であったと推測されている。

神亀・天平の両時代にのみ和歌作品が残され、行幸などに随行した際の天皇讃歌が多いことから、聖武天皇時代の宮廷歌人だったと思われるが、おそらく元明天皇によって、『続日本紀』の和銅6年5月甲子(ユリウス暦713年5月30日、先発グレゴリオ暦6月3日)の条が風土記編纂の官命であると見られている。

現存するものは全て写本で、『出雲国風土記』がほぼ完本、『播磨国風土記』、『肥前国風土記』、『常陸国風土記』、『豊後国風土記』が一部欠損した状態で残る。

 

畿内(山城国・大和国・摂津国・河内国・和泉国)、東海道(伊賀国・伊勢国・志摩国・尾張国・参河国・遠江国・駿河国・伊豆国・甲斐国・相模国・下総国・上総国・常陸国)、東山道(近江国・美濃国・飛騨国・信濃国・陸奥国)、北陸道(若狭国・越前国・越後国・佐渡国)、山陰道(丹後国・丹波国・但馬国・因幡国・伯耆国・出雲国・石見国)、山陽道(播磨国・美作国・備前国・備中国・備後国)、南海道(紀伊国・淡路国・阿波国・讃岐国・伊予国・土佐国)、西海道(豊前国・豊後国・肥前国・肥後国・筑前国・筑後国・日向国・大隅国・薩摩国・壱岐国・対馬国)などに、万葉歌人たちを派遣したと思われ、その一人が山部赤人である。

古代より富士山は山岳信仰の対象とされ、富士山を神体山として、また信仰の対象として考えることなどを指して富士信仰と言われるようになったが、ここに山部赤人の歌がある。

 

03 0317 山部宿祢赤人望不盡山(富士山:駿河国)歌一首 并短歌(713?)

03 0317 天地之(あめつちの)分時従(わかれしときゆ)神左備手(かむさびて)高貴寸(たかくたふとき)駿河有(するがなる)布士能高嶺乎(ふじのたかねを)天原(あまのはら)振放見者(ふりさけみれば)度日之(わたるひの)陰毛隠比(かげもかくらひ)照月乃(てるつきの)光毛不見(ひかりもみえず)白雲母(しらくもも)伊去波伐加利(いゆきはばかり)時自久曽(ときじくぞ)雪者落家留(ゆきはふりける)語告(かたりつぎ)言継将徃(いひつぎゆかむ)不盡能高嶺者(ふじのたかねは)

03 0318 反歌

03 0318 田兒之浦従(たごのほゆ)打出而見者( うちでてみれば)真白衣(ましろにぞ)不盡能高嶺尓(ふじのたかねに)雪波零家留(ゆきはふりける )

 

ここに歌われておるように、富士山は駿河国のものであるとする考え方が普遍的であったが、おそらく十年後には、「なまよみの甲斐の国うち寄する駿河の国とこちごちの」のように駿河国・甲斐国両国を跨ぐ山であるという共有の目線で記された貴重な例が、高橋虫麻呂によって歌われるのである。

 

03 0319 詠不盡山歌一首 并短歌(甲斐国:山梨県・駿河国:静岡県)

奈麻余美乃(なまよみの)甲斐乃國(かひのくになる)打縁流(うちよする)駿河能國与(するがのくにと)己知其智乃(こちごちの)國之三中従(くにのみなかゆ)出立有(いでたてる)不盡能高嶺者(ふじのたかねは)天雲毛(あまくもも)伊去波伐加利(いゆきはばかり)飛鳥母(とぶとりも)翔毛不上(とぶものぼれず)燎火乎(かがりびを)雪以滅(ゆきもちてめっし)落雪乎(おつゆきよ)火用消通都(ひをもけしつつ)言不得(いひもえず)名不知(なづけもしらず)霊母(たましいも)座神香聞(いますかみかも)石花海跡(せのうみと)名付而有毛(なづけてあるも)彼山之(かのやまの)堤有海曽(つつめるうみぞ)不盡河跡(ふじかはと)人乃渡毛(ひとのわたるも)其山之(そのやまの)水乃當焉(みづのたぎちぞ)日本之(ひのもとの)山跡國乃(やまとのくにの)鎮十方(しづめとも)座祇可聞(いますかみかも)寳十方(たからとも)成有山可聞(なれるやまかも)駿河有(するがなる)不盡能高峯者(ふじのたかねは)雖見不飽香聞(みれどあかずも)

 

なまよみ-の:地名「甲斐(かひ)」にかかる。語義・かかる理由未詳。

『霊』の字には少なくとも、霊(レイ)・ 霊(リョウ)・ 霊い(よい)・ 霊(たましい)・ 霊(たま)の5種の読み方が存在する。

せ【石=花/石=蜐】:カメノテの古称。

 

03 0320 反歌

03 0320 不盡嶺尓( ふじのねに)零置雪者(ふりおくゆきは)六月(みなつきの)十五日消者(いごにきえるも)其夜布里家利(そのよふりけり)

 

『零』の字には少なくとも、零(レン)・ 零(レイ)・ 零(リョウ)・ 零る(ふる)・ 零れる(こぼれる)・ 零ちる(おちる)・ 零り(あまり)の7種の読み方が存在する。

み-な-づき 【水無月・六月】:陰暦六月の別名。この月で夏が終わる。

 

03 0321 布士能嶺乎(ふじのねを)高見恐見(たかみかしこみ)天雲毛(あまくもも)伊去羽斤(いゆきはばたき)田菜引物緒 (たなびくものを)

 

『去』の字には少なくとも、去(コ)・ 去(ク)・ 去(キョ)・ 去く(ゆく)・ 去く(のぞく)・ 去る(さる)の6種の読み方が存在する。

『斤』の字には少なくとも、斤(コン)・ 斤(キン)・ 斤(おの)の3種の読み方が存在する。

03 0321 右一首高橋連蟲麻呂之歌中出焉 以類載此

 

703 0322 山部宿祢赤人至伊豫温泉(伊予国)作歌一首 并短歌(713?)

03 0322 皇神祖之(こうそゆく)神乃御言乃(かみのみことの)敷座(しきませる)國之盡(くにのことごと)湯者霜(ゆしもあれ)左波尓雖在(さはにあれども)嶋山之(しまやまの)宜國跡(よろしきくにと)極此疑(きはみしぎ)伊豫能高嶺乃(いよのたかねの)射狭庭乃(いざにはの)崗尓立而(をかにたたして)敲思(たたきしは)辞思為師(ことばしなせし)三湯之上乃(みゆのへの)樹村乎見者(こむらをみれば)臣木毛(おみのきも)生継尓家里(おひつぎにけり)鳴鳥之(なくとりの)音毛不更(たよりもかえず)遐代尓(とほきよに)神左備将徃(かむさびゆかむ)行幸處(いでましところ )

 

『皇』の字には少なくとも、皇(コウ)・ 皇(オウ)・ 皇(すめらぎ)・ 皇(きみ)の4種の読み方が存在する。

『神』の字には少なくとも、神(ジン)・ 神(シン)・ 神(たましい)・ 神(こう)・ 神(かん)・ 神(かみ)の6種の読み方が存在する。

皇(コウ)+神(こう)=(こう)

『祖』の字には少なくとも、祖(ソ)・ 祖(ショ)・ 祖(シャ)・ 祖め(はじめ)・ 祖(じじ)・ 祖(おや)の6種の読み方が存在する。

『之』の字には少なくとも、之(シ)・ 之く(ゆく)・ 之(の)・ 之(これ)・ 之の(この)の5種の読み方が存在する。

『者』の字には少なくとも、者(シャ)・ 者(もの)の2種の読み方が存在する。

『霜』の字には少なくとも、霜(ソウ)・ 霜(ショウ)・ 霜(しも)の3種の読み方が存在する。

者(シャ)+霜(しも)=(しも) し-も:〔強調〕よりによって。折も折。ちょうど。▽多く「しもあれ」の形で。

さは-に 【多に】:たくさん。

し-ぎ 【仕儀】:事の次第。なりゆき。ありさま。

『敲』の字には少なくとも、敲(コウ)・ 敲(キョウ)・ 敲(むち)・ 敲く(たたく)・ 敲き(たたき)の5種の読み方が存在する。

『辞』の字には少なくとも、辞(ジ)・ 辞(シ)・ 辞める(やめる)・ 辞る(ことわる)・ 辞(ことば)の5種の読み方が存在する。

『音』の字には少なくとも、音(オン)・ 音(イン)・ 音(ね)・ 音り(たより)・ 音(おと)の5種の読み方が存在する。

『更』の字には少なくとも、更(コウ)・ 更(キョウ)・ 更ける(ふける)・ 更かす(ふかす)・ 更(さら)・ 更える(かえる)・ 更める(あらためる)の7種の読み方が存在する。

『遐』の字には少なくとも、遐(ゲ)・ 遐(カ)・ 遐か(はるか)・ 遐い(とおい)の4種の読み方が存在する。

『行』の字には少なくとも、行(ゴウ)・ 行(コウ)・ 行(ギョウ)・ 行(ガン)・ 行(カン)・ 行(アン)・ 行く(ゆく)・ 行る(やる)・ 行(みち)・ 行う(おこなう)・ 行く(いく)の11種の読み方が存在する。

『幸』の字には少なくとも、幸(ニョウ)・ 幸(ジョウ)・ 幸(コウ)・ 幸(ギョウ)・ 幸(みゆき)・ 幸せ(しあわせ)・ 幸(さち)・ 幸い(さいわい)の8種の読み方が存在する。

『處』の字には少なくとも、處(ソ)・ 處(ショ)・ 處(コ)・ 處(キョ)・ 處(ところ)・ 處る(おる)・ 處く(おく)の7種の読み方が存在する。

 

 03 0323 反歌

03 0323 百式紀乃(ももしきの)大宮人之(おほみやひとの)飽田津尓(にきたつに)船乗将為(ふなのりしけむ)年之不知久 (としのしらなく)

 

熟田津(にきたつ)は、中世には飽田津(あきたつ)・柔田津(なりたつ)の訓が一部に行われていたと言うのだが、ここでは(にきたつ)。

 

03 0324 登神岳(かむおか:大和国)山部宿祢赤人作歌一首 并短歌

03 0324 三諸乃(みもろなる)神名備山尓(かむなびやまに)五百枝刺(いほえさし)繁生有(しげにおひたる)都賀乃樹乃(つがのきの)弥継嗣尓(いやつぎつぎに)玉葛(たまかづら)絶事無(たゆることなく)在管裳(ありつつも)不止将通(やまずかよはむ)明日香能(あすかよき)舊京師者(ふるきみやこも)山高三(やまだかみ)河登保志呂之(かはとほしろし)春日者(はるのひも)山四見容之(やましみがほし)秋夜者(あきのよも)河四清之(かはしさやけし)旦雲二(あさくもに)多頭羽乱(たづはみだるる)夕霧丹(ゆふぎりに)河津者驟(かはづはにはか)毎見(みるごとに)哭耳所泣(なくのみとなかゆ)古思者(いにしへおもゆ)

 

『乃』の字には少なくとも、乃(ノ)・ 乃(ナイ)・ 乃(ダイ)・ 乃(アイ)・ 乃(の)・ 乃(なんじ)・ 乃ち(すなわち)の7種の読み方が存在する。

『繁』の字には少なくとも、繁(ハン)・ 繁(ハ)・ 繁わしい(わずらわしい)・ 繁る(しげる)の4種の読み方が存在する。

『能』の字には少なくとも、能(ノウ)・ 能(ナイ)・ 能(ドウ)・ 能(ダイ)・ 能(タイ)・ 能(グ)・ 能(キュウ)・ 能くする(よくする)・ 能く(よく)・ 能き(はたらき)・ 能う(あたう)の11種の読み方が存在する。

『師』の字には少なくとも、師(シ)・ 師(みやこ)・ 師(いくさ)の3種の読み方が存在する。 とほ-しろ・し:大きくてりっぱである。雄大である。

『容』の字には少なくとも、容(ヨウ)・ 容(ユ)・ 容す(ゆるす)・ 容(かたち)・ 容れる(いれる)の5種の読み方が存在する。

が-ほし:〔希望〕…したい。

『驟』の字には少なくとも、驟ソウ・ 驟ジュ・ 驟シュウ・ 驟いはやい・ 驟るはしる・ 驟かにわか・ 驟しばしばの7種の読み方が存在する。

『哭』の字には少なくとも、哭コク・ 哭くなくの2種の読み方が存在する。

 

03 0325 反歌

03 0325 明日香河(あすかがは)川余藤不去(かはよどさらず)立霧乃(たつきりの)念應過(おもひすぐべき)孤悲尓不有國(こひにあらなくに)

 

03 0357 山部宿祢赤人歌六首(播磨国)

03 0357 縄浦従(なはのほゆ)背向尓所見(そがひにみゆる)奥嶋(おきつしま)榜廻舟者(こぎえるふねも)釣為良下(つりしすらしも)

 

『浦』の字には少なくとも、浦(ホ)・ 浦(フ)・ 浦(うら)の3種の読み方が存在する。 従:[音]ジュ(呉) ショウ(漢)ジュウ(慣)[訓]したが-う・したが-える(表内)より・よ-る・ゆ(表外)

『背』の字には少なくとも、背(ベ)・ 背(ヘ)・ 背(バイ)・ 背(ハイ)・ 背(ネ)・ 背(ダイ)・ 背ける(そむける)・ 背く(そむく)・ 背(せい)・ 背(せ)・ 背(うしろ)の11種の読み方が存在する。

『向』の字には少なくとも、向(ショウ)・ 向(コウ)・ 向(キョウ)・ 向こう(むこう)・ 向ける(むける)・ 向く(むく)・ 向かう(むかう)・ 向に(さきに)の8種の読み方が存在する。

背く(そむく)+向かう(むかう)=(そむかう)→(そがひ)

そがひ 【背向】:背後。後ろの方角。後方。

『廻』の字には少なくとも、廻(カイ)・ 廻(エ)・ 廻る(めぐる)・ 廻らす(めぐらす)・ 廻る(まわる)・ 廻す(まわす)の6種の読み方が存在する。 こぎ・みる【×漕ぎ▽回る】とあるけれど、(こぎえる)と訓。

 

03 0358 武庫浦乎(むこのほを)榜轉小舟(こぎくるをぶね)粟嶋矣(あはしまを)背尓見乍(うしろにみつつ)乏小舟(ともしきをぶね)

 

『轉』の字には少なくとも、轉(テン)・ 轉(セン)・ 轉ぶ(まろぶ)・ 轉ぶ(ころぶ)・ 轉げる(ころげる)・ 轉がる(ころがる)・ 轉がす(ころがす)・ 轉ける(こける)・ 轉(くるり)・ 轉る(うつる)・ 轉た(うたた)の11種の読み方が存在する。 乏:[音]ボウ(呉)ホウ(漢)[訓]とぼ-しい(表内)とも-しい(表外)

 

03 0359 阿倍乃嶋(あべのしま)宇乃住石尓(うのすむいそに)依浪(よするなみ)間無比来(まなくこのころ)日本師所念 (やまとしおもゆ)

 

『師』の字には少なくとも、師(シ)・ 師(みやこ)・ 師(いくさ)の3種の読み方が存在する。 『所』の字には少なくとも、所(ソ)・ 所(ショ)・ 所(ところ)の3種の読み方が存在する。 師(シ)+ 所(ショ)=(し)

 

03 0360 塩干去者(しほひきし)玉藻苅蔵(たまもかりくと)家妹之(いもがゆく)濱褁乞者(はまかをこふも)何矣示(なにをしめさむ)  

   

『去』の字には少なくとも、去(コ)・ 去(ク)・ 去(キョ)・ 去く(ゆく)・ 去く(のぞく)・ 去る(さる)の6種の読み方が存在する。

褁は、([音]セキ(漢)[訓]ふくろ)だけど、同義に【裹】([音]カ(呉・漢)[訓]つつ-む)がある。

 

03 0361 秋風乃(あきかぜの)寒朝開乎(さむきあさけを)佐農能岡(さぬのをか)将超公尓(こゆらむきみに)衣借益矣(きぬかさましを)

 

『開』の字には少なくとも、開(ケン)・ 開(カイ)・ 開ける(ひらける)・ 開く(ひらく)・ 開ける(はだける)・ 開かる(はだかる)・ 開ける(あける)・ 開く(あく)の8種の読み方が存在する。

『農』の字には少なくとも、農(ノウ)・ 農(ヌ)・ 農(ドウ)・ 農す(たがやす)の4種の読み方が存在する。

 

03 0362 美沙居(みさきなす)石轉尓生(せきてんにはふ)名乗藻乃(なのりその)名者告志弖余(なものらしてや)親者知友(おやもしるとも)

 

『居』の字には少なくとも、居(コ)・ 居(キョ)・ 居(キ)・ 居る(おる)・ 居く(おく)・ 居る(いる)の6種の読み方が存在する。

尓:[音]: ニ(呉) ジ(漢)[訓]なんじ・しかり・その・のみ

『藻』の字には少なくとも、藻(ソウ)・ 藻(も)・ 藻(あや)の3種の読み方が存在する。 なのりそ:海藻のほんだわらの古名。

のら-・す 【告らす・宣らす】:おっしゃる。▽「告(の)る」の尊敬語。 『余』の字には少なくとも、余(ヨ)・ 余(ヤ)・ 余(われ)・ 余(ほか)・ 余る(あまる)・ 余す(あます)の6種の読み方が存在する。 て-や:…して…か。

 

03 0363 或本歌曰

03 0363 美沙居(みさきなす)荒礒尓生(ありそにおふる)名乗藻乃(なのりその)吉名者告世(よきなはつげよ)父母者知友(ふぼもしるとも)

 

03 0372 山部宿祢赤人登春日野作歌一首 并短歌(大和国)

03 0372 春日乎(はるのひを)春日山乃(かすがのやまの)高座之(たかくらの)御笠乃山尓(みかさのやまに)朝不離(あささらず)雲居多奈引(くもゐたなびき)容鳥能(かほとりの)間無數鳴(まなくしばなく) 雲居奈須(くもゐなす)心射左欲比(こころいさよひ)其鳥乃(そのとりの)片戀耳二(かたこひのみに)晝者毛(ひるなるも)日之盡(ひのことごとく)夜者毛(よるなるも)夜之盡(よのことごとく)立而居而(たちてゐて)念曽吾為流(おもひぞあする)不相兒故荷 (あはぬこゆゑに )

 

かほ-とり 【貌鳥・容鳥】:鳥の名。未詳。顔の美しい鳥とも、「かっこう」とも諸説ある。「かほどり」とも。

『者』の字には少なくとも、者(シャ)・ 者(もの)の2種の読み方が存在する。 『毛』の字には少なくとも、毛(モウ)・ 毛(ボウ)・ 毛(ブ)・ 毛(け)の4種の読み方が存在する。 者(もの)+毛(モウ)=(も)

 

03 0373 反歌

03 0373 高按之(たかくらの)三笠乃山尓(みかさのやまに)鳴鳥之(なくとりの)止者継流(やめばつがるる)戀哭為鴨(こひなきすかも)

 

『戀』の字には少なくとも、戀(レン)・ 戀しい(こいしい)・ 戀(こい)・ 戀う(こう)の4種の読み方が存在する。

『哭』の字には少なくとも、哭(コク)・ 哭く(なく)の2種の読み方が存在する。

 

元明天皇は、霊亀元年(715年)1月に、氷高内親王を一品に昇叙させ、翌2月、もう一人の皇女である吉備内親王を妃に迎えていた長屋王家を取り立て、吉備内親王所生の男女については、三世王でありながら、皇孫(二世)の待遇とすることとし、これによって、長屋王は一世親王の待遇を得ることになった。

同年9月2日、皇位を預かる後継者として、氷高内親王(元正天皇)に皇位を譲り、同日太上天皇となり、女性天皇同士の皇位の継承は日本史上唯一の事例となるが、以降も、元正天皇を立てつつ、政治の主導権は維持し続けた。

それでも、元明太上天皇のもと、元正・不比等・長屋王は、お互いをリスペクトしながら平穏であったように思う。

 

そんな不比等が氏寺の山階寺(山城国)を奈良に移し興福寺と改め、その後、養老律令の編纂作業に取りかかるも、養老4年(720年)に施行を前に病死した(享年62)。

 

03 0378 山部宿祢赤人詠故太政大臣藤原家之山池歌一首(720)

03 0378 昔者之(むかしもの)舊堤者(ふるきつつみも)年深(としふかみ)池之瀲尓(いけのなぎさに)水草生家里 (みくさおひけり) 

  

むかし‐もの【昔物】:昔、作ったもの。だいぶ以前に流行したもの。

瀲:[音]レン(呉・漢)[訓]なぎさ